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タンクローリー事故の運転手不起訴について、最も詳しい報道は読売新聞7月23日付記事のようである。
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20110723-OYO1T00158.htm?from=newslist
これも、いつ消えるか分からないので、要旨をここに記しておく。
○大阪地検が、運転者を「過失と認定するだけの証拠がない」として不起訴(嫌疑不十分)にした理由。
〈1〉明確な前方不注視や大幅なスピード違反がない
〈2〉自転車の横断や乗用車の車線変更に気づいた時点でそれぞれ相手との距離が短かった
――などから、「事故回避のため、やむを得ない運転操作だった」と判断した。
○タンクローリーの運転手は22日、読売新聞の取材に応じ、大阪府警の取り調べで「乗用車を避けずにそのままぶつかれば、死なせることはなかったのではないか」という趣旨の質問をされたと述べ、 「今になって冷静に考えればそういう選択もあったと思えるが、事故時は乗用車が急に近づいてきたので本能的にハンドルを切った。どうしようもなかった」と語っている。
○亡くなった登尾正昭さん(75)の長男、昭夫さん(39)は、不起訴処分が決まる前の読売新聞の取材に対し、「タンクローリーと普通車の運転手がどの程度安全に対する意識を持って運転していたのか。事故時にどう考え、判断したのか。法廷で事実が知りたい」と話していた。 また、地検から不起訴の連絡を受け、「今回の結論には納得がいかない」と話した。
この記事には、事故当時の現場概念図が示されている。それは以下のようなものである。
(図1)
ところが、これと同様の概念図が5月25日付の毎日新聞に掲載されている。
(図2)
この二つを比べると、一見して分かるように、図1では三者の位置関係が非常に接近して描かれ、特に乗用車は先頭がタンクローリーと重なっている。 図2では前後関係がはっきりしており、自転車との距離もやや広く描かれている。これは、どちらが事実に近いのだろうか?
自動車と自転車の位置関係については、報道から具体的なことはよく分からないのだが、タンクローリーと乗用車の位置関係については、かなりはっきりした証言がある。
○工藤容疑者は「右前方を走っていた車が左に車線変更したため、避けようとし、歩道に乗り上げた。ブレーキをかけたが間に合わなかった」と供述しているという。(5月12日付産経新聞)
「歩道沿いを走行中、追い越し車線から前に進入してきた車に追突するのを避けようと、急ハンドルを切った」(5月12日付毎日新聞)
○笹部容疑者は「車線変更したが、ミラーで安全を確認した」と容疑を否認しているという。(5月13日付産経新聞)「横断してきた自転車をよけようと、後方確認して車線変更した」(5月13日付毎日新聞)
○浪速署によると、タンクローリーを運転していた工藤進治容疑者(55)=自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕=が「乗用車が急に割り込んできた」と説明し、走り去ったライトバンのナンバーを覚えていた。 笹部容疑者は「自転車をよけようと、後方確認してから車線変更した。ドスンという音は聞いたが自分とは関係ないと思った」と容疑を否認している。(5月13日付福井新聞、静岡新聞他配信記事)
これらの証言が確かだとすると、(1)乗用車はタンクローリーの右前方を走っていた。(2)ミラーで安全確認したが気が付かなかったことから、タンクローリーは乗用車のミラーの死角に位置していたと思われる。
(3)タンクローリーから見て、乗用車はナンバーが見える位置にいた。と言うことになり、証言と合致するのは毎日新聞掲載の図2である。
日付の新しい図1は、運転手の「事故時は乗用車が急に近づいてきたので本能的にハンドルを切った。どうしようもなかった」という最近の証言からの想像で描かれたものと思われ、事故発生当時の証言と合致しない。
また、図1ではまるで大型タンクローリーのように描かれているが、事実は中型タンクローリーであり、この点も図2が事実に近い。
このほか、記憶しておくべき証言を以下に列挙しておく。(事故から時間が過ぎ、十分な記事を集められないのが残念である。)
○現場から十数メートル離れた歩道上にいた男性(66)は、「ドーン」という音で事故に気付いた。「タンクローリーが道路標識やガードレールをなぎ倒して歩道脇の店舗に突っ込んでいた」と事故当時を振り返った。
「車から降りてきた運転手は落ちついた様子で署員と話していた。担架で運ばれた2人はまったく動かなかった」。タンクローリーは直前に男性の目の前を通ったが、それほどスピードは出ていなかったという。
近くの写真現像店の男性店主(75)は、事故直後に道路の中央付近に自転車とその持ち主らしき男性が倒れているのを目撃した。浪速署によると、同様の目撃情報は複数あり、男性はすぐに立ち去ったという。(5月12日付産経新聞)
○工藤容疑者は「歩道沿いを走行中、追い越し車線から前に進入してきた車に追突するのを避けようと、急ハンドルを切った」と説明しているという。タンクローリーは、歩道上を約13メートル進んで2人をはね、建物に衝突して止まった。(5月12日付毎日新聞)
○笹部容疑者は「自転車に乗っていた人を避けるために車線変更した。しばらくして後ろのほうで『ドスン』という音を聞いたが、自分とは関係ないと思った」と供述。事故直後に道路の中央付近に自転車と男性が倒れていたとの目撃情報があり、浪速署が調べている。 浪速署の調べでは、亡くなった2人は大阪市城東区成育の運送アルバイト、登尾正昭さん(75)と、大阪市福島区吉野の派遣社員、永井景二さん(49)。(5月13日産経新聞)
何の落ち度もなく、突然理不尽にも命を奪われたお二人の冥福を祈ると共に、 突然肉親を奪われただけでなく、真実究明の機会さえ奪われたご遺族の心中の無念に思いを致し、 心から哀悼の意を表したい。
(8月1日)
さて、以上の事故当時の報道を見ると、最近の報道とはわずかだが事実のとらえ方が違う。
最近の、特に不起訴決定後の報道を見ると、上記読売新聞の概念図のように、タンクローリー、ライトバン、自転車の三者の距離が非常に近く印象づけられている。 特にライトバンの車線変更は、ほとんどタンクローリーの横から斜め前に向かって行われたように描かれている。 MBS放送で衝突の模様をアニメ化していたが、やはり、自転車の横断、ライトバンの車線変更、タンクローリーの進路変更がほとんど同時に起こったことのように描かれていた。
ところが、事故当時の報道では、ライトバンは「ミラーで安全を確認した」「横断してきた自転車をよけようと、後方確認して車線変更した」と、全く余裕のない瞬時の行動としては伝えられていない。
また、車線変更時の位置関係は「右前方を走っていた車が急に左に車線変更した」「追い越し車線から前に進入してきた車に追突するのを避けようと」と、前後の関係が明確である。
私自身、最初のうちは「追突を避けるためにハンドルを切った」と認識していたのが、いつの間にかその点があいまいになって「衝突を避けるためにハンドルを切った」などと表現している。 つまり「追突」ではなくて、横や斜め方向の「衝突」だったかも知れないと思い直しているのだが、やはり「追突を避けるため」が正しかった。
ライトバンに関しては、「車線変更」そのものが違反というわけではないが、「後方を確認する」だけの余裕があったのなら、ブレーキを踏んでいれば自転車との衝突を避けられた可能性もあったのではないかと思う。
タンクローリーに関しては、「急ハンドルを切っ」て、「歩道に乗り上げ」ること自体が違反だが、やはりブレーキを踏んでいれば、追突を回避できた可能性、あるいは追突しても最小限の被害で済んだ可能性もあったのではないかと思う。
問題の本筋は、「どれだけ余裕があったか」ではなく、「そもそも歩道に乗り上げる」こと自体が違反であり過失であると言うことなのだが、 事故当時の報道を客観的に見ると、ハンドルを切ったことは、それ以外に「どうしようもなかった」こととは思えない。 もっとも、現実に同様のケースでは、多くの運転者はそれ以外に「どうしようもなく」追突している。 このような場合、ハンドルを切って歩道に突っ込もうと、前の車に追突しようと、運転者がそれを「どうしようもなかった」と感じるのは当然のことである。 そのことと過失の有無は別の問題なのである。
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