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JIS文字の不思議

日本の古代では「珍」という字体は書かれず「珎」と書かれていたとか、「本」とは書かれず「夲」と書かれていたとか、そういう話題を取り上げながら、一つ不思議に思うことがある。 ではなぜ、そんな文字がパソコンで出てくるのか?

パソコンで扱える文字の数とか基本的な字体などは、30年あまり前にワープロが登場したころからJIS規格で定められている。 当時はJIS第1水準、第2水準合わせて6千字余りの文字が規定されていた。 普通の高校生が持っているような漢和字典はおおよそ1万字程度の漢字を収めているが、6千字余りというのは、それと比べても決して多い数ではない。 ところが、そのような漢和字典にのっていない漢字や、のっていてもごく簡単な扱いをされる漢字が、JISでは相当数採用されている。 「珎」も「夲」も一般にはほとんどなじみのない字体だと思うが、初めからJISに入っているのだ。

もちろんJIS文字の規格立案者に歴史マニアが混じっていたわけではない。JIS文字の考え方は、一言で言えば「何が正しいか」ではなく「何が使われているか」を基準にしたということだ。 辞書的な「正しさ」よりも、実際に使われている文字をできるだけ収録しようとした。特に、人名や地名などで、字書にものっていない漢字が使われていることは良くあることだ。

使用頻度だけの問題ではなく、例えば特定の自治体の名称も表せないのでは困る。大枚をはたいて(当時のワープロ価格は百万円単位)役場にワープロを導入した。 さて、ワープロ導入のお知らせで「○○町では…」と書き出したとたんにその漢字が出ない、では困るわけだ。 もちろん実際には収録の漏れもあり、字体を間違って収録した例もあるのだが、ともかく方針としてはそういうものだった。

「珎」や「夲」という字体が、どのような必要で収録されたのか知らないが、これらの字体は古代の全盛期を過ぎて、中世近世を生き延び、現代にまで脈々とその生命を保ってきたわけである。

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